光受容体CarHの構造解析によるビタミンB12の新規機能の解明

村木 則文
(自然科学研究機構分子科学研究所 生命錯体分子科学研究領域 特任助教)

2014年11月30日日曜日

日韓セミナーにて招待講演

韓国高等科学院KIASで開かれたセミナーで発表してきました。
正式には
Seventh Korea-Japan Seminars on Biomolecular Sciences - Experiments and Simulation
と言います。

(シンポジウムのポスター。左段やや下に私の名前があります。)
この度は招待講演者として発表させていただきました。
若手研究者は3人だけで、英語による講演ということもあり、かなり緊張しました(汗)

ソウルは思っていたほど寒くはなかったのですが、
韓国の先生方によると、私が訪問した日がたまたま暖かかっただけのようです。
その前の週は雪が降ったそうです。


Jooyoung Lee先生をはじめとするオーガナイザーの先生方、ありがとうございました。



2014年11月17日月曜日

結晶学会の感想です

11月初めに日本結晶学会年会に参加しました。
今回、東大のホールを会場にするため、3連休まるまる使って開催されました。
(平日は講義などで使うため、借りられないのだと思います)
結晶学会は久しぶりで、この学会でしか会わない知人もいるので、再会を楽しみました。

結晶学会は化学系・物理系・生物系と分かれていて、
生物系はタンパク質の結晶構造解析に関する発表が大半を占めます。

個々の発表は専門的になるので省きますが、
最近の結晶学(生物系)の動向がよくわかったので、
そのあたりを少し書きます。


やはり、タンパク質は鉱物に比べて、柔らかくて、軽くて、弱いです。
あたりまえですが、いつも大きな問題として私たちの前に立ちはだかります。

1. 結晶にならない

2. エックス線で損傷する

3. タンパク質は本来動いている(結晶の中では動けない)


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非常によくある話で、私も悩まされています。
今回、助成を受けている研究対象のタンパク質もなかなか結晶化しません・・・
最近では、天然変性という概念が盛んに議論されています。
タンパク質は折り畳まれた “決まった構造” をとっていると思われていたのですが、ふらふらと特定の構造をとっていないタンパク質が多数報告されています(天然変性状態)。
これらは、一定の条件下で "決まった構造" をとることで、機能を発揮します。
(普段は変性状態をとることで、スイッチがオフの状態にある)
ある程度しっかりした構造をとらないと結晶にはならないので、このようなタンパク質の結晶化は非常に難しいです。結晶構造解析以外の実験手法を組み合わせることも多いようです。一部分の構造を基に、理論計算で全体構造を予測した研究も発表されていました。

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構造解析用のデータを得るには、1個の結晶から数枚〜数百枚の回折写真を収集します。
エックス線を当てることになるので、結晶は毎回損傷を受けます。つまり、X線結晶構造解析で得られた構造は、少なからず損傷を受けた後の構造と言えます。いかに損傷を軽減するかという工夫もありますが、全く異なる手法で解決する方法が出てきました。
X線自由電子レーザーSACLAです。
SACLAは2011年に完成した、できたてほやほやの実験施設ですが、早くも研究成果が出ています。原理を一言で書くのは難しいのですが、非常に強力で非常に細いビームを短時間だけ照射することで損傷を回避しています。

3
タンパク質は柔らかくて、動きのある分子です。
結晶にすると溶液中とは異なり、大きく動くことができません。
動く過程をコマ撮りするように結晶をつくることもあるのですが、
動きを止めて結晶化できた例は決して多くはありません。
最近は他の実験手法と組み合わせることで解決しています。
(電子顕微鏡のように、結晶構造解析に比べると分解能(解像度)は低いが、より天然に近い状態で観察できる実験手法があります)
共同研究って大事です!


まとめ
今年、「ありのままの〜」という歌が流行りましたが、
生物の体内のありのままの構造にどこまで近づけるか!というのが
結晶学(生物系)の重要課題となっています。

2014年10月24日金曜日

やさしい科学技術セミナーの報告です

1020日(月)に河合中学校で全校生徒75人を対象に「結晶学入門 ~分子のかたち、私たちのかたち~」というタイトルで、やさしい科学技術セミナーを行いました。
結晶学入門というタイトルは堅苦しいかなと思ったのですが、中学生の頃を思い返してみると、結晶というのは理科の授業で出てくる一つの現象に過ぎず、それが学問として成り立っているというのはあまり考えなかったものです。そこで、最初に思いついた「結晶学入門」というタイトルを残しました。



セミナーのはじめに黄鉄鉱とアメジストを生徒に見て、触ってもらいました。ビデオや写真を見直すと、意外と好評だったようです。どちらも個人的に収集したもので、こんなときに役立つとは思いませんでした。

実験は前回のブログにも載せたように、酢酸ナトリウムの結晶化実験です。ひとかけらの結晶核から、結晶が瓶全体に成長する様子を見て、歓声があがっていました。実験で歓声をあげる姿は非常に新鮮でした。研究者のみなさん、実験結果を見て歓声をあげたことってありますか?
好奇心や情熱が大事だと言っているものの、大人になると失ってしまうものですね。

後半では、X線結晶構造解析の話をしました。やはり中学生には難しかったようです。実験して見せたいところなのですが、中学校の体育館でエックス線実験をするわけにはいきませんので。

終盤、私の専門であるタンパク質の結晶構造の話をしたのですが、中学生に何をどこまで話せば良いか悩みました。今回はヘモグロビンを例に出したのですが、身近なタンパク質なので興味をもってもらえたかと思います。

最後が説教臭くなってしまって(大誤算)、しまった!と思ったのですが、何人か質問に来てくれた生徒がいてホッとしました。



理科嫌いの子供が増えていると話題になっていますが、結晶が出たときの生徒の歓声を聞く限り、悲観しなくてもいいのではと感じました。いつまでも、その感性を大事にしてほしいと思います。


最後となりましたが、岡崎市立河合中学校の河野先生には授業の段取りや会場設営をはじめ、大変お世話になりました。本当にありがとうございました。この場を借りて御礼申し上げます。
また、当日は何名かの先生にもご参加いただきました。生徒へのフォローなど、ご協力ありがとうございました。

2014年10月3日金曜日

中学校訪問と結晶成長実験

やさしい科学技術セミナーを控えて、会場の下見をさせてもらいました。

今回、岡崎市立河合中学校への出前授業として、セミナーを予定しています。
河合中学校はゲンジボタルの発生地として知られる河合地区にあり、
生徒のみなさんもホタルの保全活動をされています。




会場が体育館となり、実験用の設備がないので、
安全かつ、できるだけシンプルな実験を計画しました。
そこで準備したのが、酢酸ナトリウムの結晶化実験です。
結晶が成長する様子を見るには、数時間〜数日かかることが多いのですが、酢酸ナトリウムの過飽和水溶液を使うと数分で見ることができます。観察するには、ちょうど良い時間スケールです。

<予備実験一回目の様子>
過飽和溶液に微結晶を加えると

微結晶を種として結晶が成長します


このぐらいの大きさで止まるとキレイなのですが…

成長した部分を種として成長して、全体を埋めつくします
(全体を埋めつくすまで1、2分程度です)



今日は、より大きいスケールで予備実験の準備をして、
意気揚々と中学校に向かったのですが、失敗してしまいました。
輸送途中に結晶が出ないように濃度を低めにしたのですが、下げすぎたようです。研究室に帰ってから、再実験。

<予備実験2回目の様子>
微結晶を先端につけた棒を入れる


小さい結晶が析出する (棒の途中からも結晶が析出した)


大きくなった結晶は自重に耐えかねて落下


その結果、底でも結晶成長が進みます


最後は瓶全体に結晶が広がります

(ここまで3分程度)


1回目と2回目で結晶の析出の仕方が違っていて驚きました。
普段、扱っている生物試料(タンパク質)は非常に非常にデリケートなので、
わずかな条件の違いで結晶が出なかったりするのですが、
酢酸ナトリウムでもこのような差がでるとは思いませんでした。


それと、酢酸ナトリウムのような無機塩は冷やしたり、乾燥させれば結晶になってくれますが、タンパク質の結晶は、どのような条件で結晶になるかが全くわかっていません。
なんでも結晶化してしまう魔法の薬がないかなぁというのは、この分野の人なら誰でも一度は思うことです。
実現すれば、確実にノーベル賞ですよ!

2014年9月24日水曜日

化学系の学会に参加しました他

専門は、生物学ですか?化学ですか?あるいは物理学ですか?
とよく聞かれます。
そんなときは、
"生物を化学の視点で解明するために、物理学の手法を使って解析しています”
という もっともな解答を用意しています。

分子科学研究所に来て1年余り、化学の"目"を養っているところです。
そんなわけで、今月は化学系の2つの学会に参加してきました。

<バイオ関連化学シンポジウム>
この学会は複数のシンポジウムの共催となっていますが、いずれも生体内の分子に着目して、化学の視点で新しい知見を見つけようという化学者たちのシンポジウムです。
例えば、タンパク質やDNAに化学合成した新規のプローブを結合させたり、酵素を化学修飾して新しい機能をもたせる研究などが挙げられます。
生物由来の試料を加工して、全く新しい機能をもたせるという発想は、私のような生物学分野の出身者には非常に新鮮でした。

<錯体化学討論会>
錯体というのは、金属が非金属と配位結合や水素結合することで形成された分子を言います。
懇親会の席で、会長が「の字の印象から『精神医学の学会ですか?』と聞かれたことがある」とおしゃっていましたが、錯体というのは馴染みのない言葉だと思います。
合成色素として知られるフタロシアニン、抗がん剤のシスプラチンなどが知られる他、天然では光合成色素のクロロフィルや血液に含まれるヘム、本助成研究のテーマであるビタミンB12も錯体です。
しかし、学会全体では生物由来の錯体の研究者は少なく、どちらかと言えば、新規の錯体を合成して、触媒としての応用の可能性を広げようという方向性にあるようです。
もちろん、そのような新規の錯体開発のためにも、生物が進化の過程で獲得してきたヘムやクロロフィル、ビタミンB12の研究は重要だと思うのですが。
もっと、この分野の研究者を増やさないといけませんね。


<今後の予定>
やさしい科学技術セミナーまで一ヶ月を切りました!
予備実験に成功したので、こちらのブログにアップしようと思います。
近日公開!

2014年7月2日水曜日

蛋白質科学会年会に参加しました

先日は蛋白質科学会年会とSPring-8における実験がありましたので、
その報告です。

今年の蛋白質科学会年会は横浜で開かれました。
蛋白質科学会は生物を構成するタンパク質がどのような構造・機能・性質をもつのかをありとあらゆる手法で解明する人たちの学会です。
デビット・アリス博士との懇談会でお会いした胡桃坂先生がワークショップを担当されるなど、生命科学分野の有名な学会のひとつです。
どなたかとお会いできるのでは?と思っていたら、会場で塩井先生にお会いしました。
(写真は塩井先生のブログで!)
ここでは、入口で撮った私の写真をお見せします。


私はポスター発表で参加しました。
発表内容はヘムの取込みに関わるタンパク質の研究について。
生物は鉄やコバルトなどの金属を必要とするのですが、ヘム(鉄)やビタミンB12(コバルト)のような金属化合物(錯体と言います)として利用しています。今回の発表では、生物種によって細胞内へのヘムの取込み方法が多様であることを構造から明らかにしました。
このような取り込み方法の違いを利用すれば、病原菌の金属取込みをシャットアウトして死滅させることができるかもしれません。

最終日には、男女共同参画特別ワークショップとして宇宙飛行士の山崎直子さんが講演されました。
宇宙ステーションの中は小さな社会であり、専門外であっても、時には医療、時には機械の修理を行う等、マルチな才能が求められるようです。山崎さんは機械工学出身だそうですが、宇宙滞在中はタンパク質の結晶構造解析に使う結晶を"宇宙で作る"という実験もされています。

驚いたことに、宇宙飛行士は年齢制限が無いそうです。
みなさんも挑戦されてはいかがでしょうか?
私は...レトルト食品がもっと美味しくなったら、考えてみます。


つづく

2014年6月19日木曜日

夏の暑さとタンパク質研究

梅雨入りしたというのに、岡崎は晴天に恵まれていて、今日も暖かいです。人によってはちょっと蒸し暑く感じるかもしれませんが、私はこれぐらいがちょうど良いです。

では、研究材料であるタンパク質にとっては?
いうと、「熱」は大敵です。
たんぱく質を食品として食べるなら、煮ても焼いても乾燥させても良いのですが、生命科学の研究対象とする場合、熱で変性しないように気をつかいます。
卵を例にして、変性していない・機能をもった状態が生卵で、変性して機能を失った状態がゆで卵という説明をよくするのですが、鍋でぐつぐつ茹でなくても、室温でも多くのタンパク質は変性していきます。
そのため、タンパク質の研究室は冷蔵庫が多く、夏場は電気代がかさみます。

そんなタンパク質の研究者が集まる学会・蛋白質科学会が来週開催されます。
岡崎に赴任して初の学会参加となります(*)


また、学会の翌々日には、放射光施設SPring-8X線測定を予定しています。
SPring-8は電子を加速させて、磁場をかけることにより、強力な電磁波(X線)を出させる巨大な実験施設です。SPring-8は非常に厳密に設計されているので、温度変化による歪みが無いように施設内の温度はほぼ一定に保たれています。
電子を加速させるために非常に電力消費が多い施設ですが、夏場はさらに電気代がかさみます。
そのため、電力消費の多い7月半ばから9月にかけては装置を休止させています。
もちろん、その間はX線測定実験はできません。

夏の暑さはタンパク質研究には大敵です。




*今月の初めに生体分子科学討論会という小さなシンポジウムに参加・発表しています。

2014年5月12日月曜日

今日のGoogleトップ画像について

今日のGoogleのトップ画像をご覧になりましたか?
あと3時間で日が変わるので、貼っておきます。
  (Googleより)

ドロシー・ホジキン博士の生誕104年記念の画像だそうですが、
なんだかわかりますでしょうか?

これはペニシリンの電子密度と分子モデルを表しています。
実物も残っているようです。
  (wikipediaより)


 分子モデルの後ろの「衝立て」に縞模様が描かれているのがわかりますでしょうか?
これは、結晶にX線を照射して得られたデータから計算して得られた「電子の密度」を表示しています。
ここでは電子の密度の高さを等高線で表しています(天気図や地形図を想像してください)

等高線が高い = 電子の密度が濃い = そこには原子がいる

このように判断して空間上に原子を配置します。
原子と原子の距離や角度を見ながら、原子間を結合によってつないだものが、分子モデルになります。
ホジキン博士が活躍した結晶構造解析の黎明期では紙と鉛筆、あるいは針金や透明なプラスチックの板などを用いて、分子モデルを組んでいたようです。

現在では、電子密度の計算もモデルの構築もすべてコンピュータ上でおこなっています。

























(現在、私が解析中のタンパク質の一部を表示。黄色と赤が分子モデルで、青い網目状のものが電子密度。)


ホジキン博士は1956年にはビタミンB12の結晶構造解析にも成功しており、多くの結晶構造解析の功績から1964年にノーベル化学賞を受賞しています。(今年はノーベル賞受賞から50周年にあたります)
また、この研究を出発点として、50年以上経った今でも、数多くの研究者がビタミンB12の構造・機能解析に取り組んでいます。

結晶構造解析の研究者として、そして、ビタミンB12の研究者として、偉大なる大先輩に敬意を表します。
(軽い感じで書くつもりが随分と固くなってしまいました・・・)

2014年4月30日水曜日

研究ブログ始めます!

こんにちは.
自然科学研究機構・分子科学研究所の村木則文です.
この度,国際科学技術財団の研究助成に採択いただき,加えて,日本国際賞授賞式・祝宴にご招待いただきました.


研究助成贈呈式に参加して
この日,前日の深夜までSPring-8で実験をしていた私は兵庫県の山奥からバスと新幹線を乗り継いで東京に来ました.ここで,SPring-8とは〜という説明をすると長くなりますし,おそらくブログ2,3回分になりますので今後のお楽しみとします.

私の研究では,SPring-8なるモノを度々使っており,共に研究助成を受ける方々とは研究手法が大きく異なるため,同席しても大丈夫なのかという妙な心配がありました.
生命科学は生物を対象とする学問ですが,生物種も様々です.
バクテリアの研究者は私だけで,ヒト,マウス,ショウジョウバエ…私以外はみんな足が生えた生き物だと思っていたら,隣に座った塩井さんはヘビでした(笑)

私は小さな研究室にいるものですから,分野に多少の違いはあっても,同じ若い世代の研究者,それも意欲的なたくさんの研究者との交流というのは非常に貴重な機会でした.


日本国際賞授賞式・祝宴に参加して
翌日は日本国際賞の授賞式・祝宴に出席させていただきました.
天皇皇后両陛下ご臨席の場は初めてであり,このような授賞式・祝宴の席も初めてでした.
なんと言葉にして良いかわかりませんので,写真を載せます.
私です.まるで自分が受賞したかのような顔で写っていますね.

授賞式・祝宴の感動(あるいは衝撃!)は,未だ余韻さめやらず,
気を引き締めて研究に努めなければ!と言い聞かせています.


今後の予定
冒頭に挙げたSPring-8における実験,学会への参加,そして「やさしい科学技術セミナー」を予定しています.
それに加えて,ブログでは研究内容を噛み砕きながらお伝えできればと思います.
それでは一年間よろしくお願いします.