光受容体CarHの構造解析によるビタミンB12の新規機能の解明

村木 則文
(自然科学研究機構分子科学研究所 生命錯体分子科学研究領域 特任助教)

2017年1月10日火曜日

新年のご挨拶と国際学会報告


あけましておめでとうございます(遅くなりましたが)。
本年もよろしくお願いします。
かなり久しぶりの更新となります。

私は2014年度に研究助成を賜りまして、光受容体CarHの研究を本格的に開始しました。先のブログ記事にある台湾の放射光施設で測定したデータが決め手となって、昨年、研究課題にある「光受容体CarHの構造解析」に成功しました。

昨年は各地で研究発表を行いました。逐一報告すべきでしたが、遅くなって申し訳ありません。ここでは、昨年参加した学会の中でも最大規模である、12月4日〜9日に開催された第8回アジア生物無機化学会議 8th Asian Biological Inorganic Chemistry Conference (AsBIC8) について報告します。
「生物無機化学」は生体と金属の関わりを対象とした研究分野で、錯体化学から薬学まで広い分野を含んでいます。本会議AsBICはアジア太平洋地区において隔年で開催されており、今回はニュージーランドのオークランドで開催されました。

私はポスター発表で参加しており、3日目の夕方のセッションで発表しました。ニュージーランドでの開催ということもあり、オセアニアやアメリカからの参加者が多く、ネイティブの英語が飛び交う中での発表でした。私の研究は生命科学に近いので(研究助成も生命科学分野です)、この学会のメインフィールドとは違うかなあと思っていたのですが、多くの先生方から質問をいただき、活発な議論を交わしました。また、過去のブログの記事にもありますが、私の所属する分子科学研究所は韓国との合同セミナーなどを活発に行っており、韓国の研究者との再会もありました。

ニュージーランドは南半球なので12月は真夏です。それでも日本の夏というより初秋ぐらいで、夜は肌寒いぐらいでした。ただ、日差しは強く、海沿いを軽く散歩しただけでも日焼けしました。食事の量が多くて、体重が増えたというより、脂肪が増えた気がします。

最終日は疲れもたまり、懇親会をキャンセルしてホテルで寝ようと思っていたところにポスター賞の発表がありました。
なんと Best Poster Award をいただきました!
これはいくつかあるポスター賞の中でも、最優秀ポスター賞です。海外の学会で初めて賞をいただきました。(私自身はポスター賞にエントリーしたつもりがなかったので、聞いたときは驚きでした。エントリーの必要はなく、ポスター発表者は全員対象だったようです。)



(懇親会での写真)同じくポスター賞を受賞したJoseph君と共に。お互い日焼けとお酒で赤い顔をしている。左手に持っているのは副賞としていただいたSiegel教授が書かれた生物無機化学の教科書です。懇親会ではメッセージと共にサインをいただきました。


このような形で誉ある賞を受賞できたのも、国際科学技術財団の研究助成あってのことです。本当にありがとうございました。ビタミンB12(コバルト錯体)の光受容体としての機能は近年注目を浴びてきており、論文数も増えています。この研究をはずみにして、コバルト以外にも様々な金属が関わるセンサータンパク質の研究を展開してまいります。

また、ブログを更新します。今後ともよろしくお願いします。

分子科学研究所 助教(昨年5月に助教になりました)
村木則文

2015年10月1日木曜日

分子研一般公開のお知らせ

私の所属する分子科学研究所で今月一般公開があります。

10月17日 分子科学研究所一般公開

名古屋から名鉄電車で30分余、東岡崎駅徒歩5分です。
岡崎には分子科学研究所・基礎生物学研究所・生理学研究所があり、毎年順に一般公開しています。
今年は、3年に1度、分子科学研究所の研究に触れられるチャンスです!!

小学生から大人まで楽しめる幅広い内容となっています。
私もこちらの研究所に着任して初めての一般公開ですので楽しみです。

webサイト(http://www.ims.ac.jp/koukai2015/)もありますが、私なりに補足します。

施設・実験室公開
UVSORというシンクロトロン実験施設の中に入ることができます。
有機ELや半導体の精密構造の観測やアミノ酸の研究にも使われています。
私も普段立ち入ることがないので行ってみたいです。
超圧力発生装置も気になります。

体験イベント
毎回、体験型のイベントが人気らしく、その数も増えているようです。
私の研究室は毎回、DNAを抽出する実験をしており、今年もその予定です。
昨年、遠藤さんがやさしい科学技術セミナーでされた実験とほとんど同じです。
http://blog2014endou.japanprize.jp/2014/07/blog-post.html
日常で目にする材料で実験できることと危険性がないのでセミナーや一般公開に向いている実験だと思います。それと、DNAが恐ろしい物質だと思っている人もいるそうですので(遺伝子組み換え食品の影響?)、DNAを身近に感じてもらうのにも良いですね。
おそらく私は一日中、こちらのブースにおります。

展示パネル
分子研の研究は想像以上に多彩です。
研究内容を陳列しているだけではなくて、研究者自らが説明します。

特別講演会
JAXAが打ち上げた「はやぶさ2号」の試料分析に分子研が加わることが昨年決まりました。
今回、はやぶさの宇宙探査についての一般向けの講演があります。はやぶさ1号が無事に帰還したときは大きな話題になりましたが、”その後”も重要だと思います。どのように試料を分析するのか、そこから何がわかるのか、そんな話が聞けると思います。

その他イベント
岡崎のゆるキャラ(?)オカザえもんが来ます。
岡崎に来て2年経ちますが未だに会ったことがありません。
体験イベントのブースに来てくれることを期待します。


愛知県外からはアクセスしづらいところもありますが、
皆様のご来所をお待ちしております。

2015年8月27日木曜日

台湾の放射光施設に行ってきました

久しぶりの更新です。
分子科学研究所の村木です。

今年は台風が多いですね。
昨日は岡崎でも台風を感じさせるほど風が強かったです。
今月初めには、台風13号が台湾に直撃して騒ぎになりましたが、
そのとき、台湾の研究施設にいました。

これまでのブログにあるように、兵庫県のSPring-8でエックス線実験を行うことが多いのですが、この度、縁あって台湾の放射光施設NSRRCで実験する機会に恵まれました。

*放射光施設とは
電子(または陽電子)を高速で加速させて、磁場をかけることで放射光と呼ばれる電磁波を発生させる施設。日本では播磨のSPring-8, 筑波のPhoton Factory, 分子研のUVSORなどがあります。私の研究では高輝度エックス線が必要となるので普段はSPring-8を使っています。

*NSRRCとは
National Synchrotron Radiation Research Centerの略称。漢字では国家同歩輻射中心と書きます。台北の南、新竹市の科学特区(?)にあります。隣には国立清華大学・国立交通大学という名門大学が並んでいます。



8月7日
台風より先に上陸しました。この夜、台風が台湾東部に上陸しました。NSRRCの宿舎で台風の通過を待ちます。

8月8-9日
翌朝、研究所の敷地内の写真です。
オレンジ色のコンテナはどこから転がってきたのだろうか?

(右)道を塞ぐように大きな木が倒れていました。街路樹の多くが台風に弱く、研究所の外も同じような有様でした。


この日も風は強く、前日、駅で買ったビニール傘は強風にあおられて壊れました。


幸い研究施設が直接被害を受けることはなく、実験をすることができました。


受付のある建物に入ると、壁に「光」の文字がありました。
(SPring-8は「波動」という大きな書画が飾ってあります)

壁の写真を撮っていたら、受付の方が気を利かせて天井のライトを点けてくれました。
これも放射光に関係する漢字をあしらったようなのですが、なんという字だったか忘れてしまいました。この写真ではよくわかりませんね。


8月10日
この日の朝まで交代で実験を行いました。
新幹線で空港まで帰ります。日本の新幹線と同じなので日本に帰ってきたような気分になります。


まとめ

台風の影響で実験時間が短縮されたものの、良いデータが得られました。
現在、データの解析中です。まだ時間はかかりそうですが、論文になったらコチラで報告します。

2015年3月29日日曜日

SPring-8の話

今年度もいよいよ終わりですが、SPring-8の様子をレポートできていませんでした。今年度6回以上行っているのですが。
言い訳になってしまうのですが、一人で実験することが多いため写真をとる暇が無かったというのが最大の理由です(実験スケジュールは厳密です)。何枚か写真を撮っているので、それらをここで紹介します。

山陽新幹線の相生駅がSPring-8の玄関口です。

相生と言えば、ど根性大根の大ちゃんです。

牡蠣で有名です。夕食に牡蠣を食べて、明日の実験に備えます。

SPring-8の中の様子です。
ドーナツ状の建物の中なのですが、なんとなく形状がわかるでしょうか?天井の高さや照明は体育館のようです。中はパーティション等で仕切られており、それぞれが実験区画となっています(写真では左側が実験区画)。各実験区画に放射光エックス線のラインがあります。これはビームラインと呼ばれ、SPring-8には50程度あります。
1周3kmあり、自転車で周ることができます。暴走はできませんよ。パイプにケーブル、液体窒素から超高級な実験装置がゴロゴロしてますから!

最近、良い結晶が得られたのですが、3月は春休みでビームが止まっていて使えません。「春休み」と言うと休暇のイメージがありますが、ビームが止まっている間にメンテナンスや機器の導入があるので職員の方は大忙しです。本当にいつもお世話になっています。

私は利用したことはありませんが、自由電子レーザー実験施設SACLAがSPring-8の隣に建てられ、3年前から稼働しています。4月26日にはSPring-8とSACLAの一般公開がなされます。予約など不要なので、貴重な機会ですので興味のある方は是非行ってみてください!
http://www.spring8.or.jp/ja/news_publications/events/open_sp815/

2014年11月30日日曜日

日韓セミナーにて招待講演

韓国高等科学院KIASで開かれたセミナーで発表してきました。
正式には
Seventh Korea-Japan Seminars on Biomolecular Sciences - Experiments and Simulation
と言います。

(シンポジウムのポスター。左段やや下に私の名前があります。)
この度は招待講演者として発表させていただきました。
若手研究者は3人だけで、英語による講演ということもあり、かなり緊張しました(汗)

ソウルは思っていたほど寒くはなかったのですが、
韓国の先生方によると、私が訪問した日がたまたま暖かかっただけのようです。
その前の週は雪が降ったそうです。


Jooyoung Lee先生をはじめとするオーガナイザーの先生方、ありがとうございました。



2014年11月17日月曜日

結晶学会の感想です

11月初めに日本結晶学会年会に参加しました。
今回、東大のホールを会場にするため、3連休まるまる使って開催されました。
(平日は講義などで使うため、借りられないのだと思います)
結晶学会は久しぶりで、この学会でしか会わない知人もいるので、再会を楽しみました。

結晶学会は化学系・物理系・生物系と分かれていて、
生物系はタンパク質の結晶構造解析に関する発表が大半を占めます。

個々の発表は専門的になるので省きますが、
最近の結晶学(生物系)の動向がよくわかったので、
そのあたりを少し書きます。


やはり、タンパク質は鉱物に比べて、柔らかくて、軽くて、弱いです。
あたりまえですが、いつも大きな問題として私たちの前に立ちはだかります。

1. 結晶にならない

2. エックス線で損傷する

3. タンパク質は本来動いている(結晶の中では動けない)


1
非常によくある話で、私も悩まされています。
今回、助成を受けている研究対象のタンパク質もなかなか結晶化しません・・・
最近では、天然変性という概念が盛んに議論されています。
タンパク質は折り畳まれた “決まった構造” をとっていると思われていたのですが、ふらふらと特定の構造をとっていないタンパク質が多数報告されています(天然変性状態)。
これらは、一定の条件下で "決まった構造" をとることで、機能を発揮します。
(普段は変性状態をとることで、スイッチがオフの状態にある)
ある程度しっかりした構造をとらないと結晶にはならないので、このようなタンパク質の結晶化は非常に難しいです。結晶構造解析以外の実験手法を組み合わせることも多いようです。一部分の構造を基に、理論計算で全体構造を予測した研究も発表されていました。

2
構造解析用のデータを得るには、1個の結晶から数枚〜数百枚の回折写真を収集します。
エックス線を当てることになるので、結晶は毎回損傷を受けます。つまり、X線結晶構造解析で得られた構造は、少なからず損傷を受けた後の構造と言えます。いかに損傷を軽減するかという工夫もありますが、全く異なる手法で解決する方法が出てきました。
X線自由電子レーザーSACLAです。
SACLAは2011年に完成した、できたてほやほやの実験施設ですが、早くも研究成果が出ています。原理を一言で書くのは難しいのですが、非常に強力で非常に細いビームを短時間だけ照射することで損傷を回避しています。

3
タンパク質は柔らかくて、動きのある分子です。
結晶にすると溶液中とは異なり、大きく動くことができません。
動く過程をコマ撮りするように結晶をつくることもあるのですが、
動きを止めて結晶化できた例は決して多くはありません。
最近は他の実験手法と組み合わせることで解決しています。
(電子顕微鏡のように、結晶構造解析に比べると分解能(解像度)は低いが、より天然に近い状態で観察できる実験手法があります)
共同研究って大事です!


まとめ
今年、「ありのままの〜」という歌が流行りましたが、
生物の体内のありのままの構造にどこまで近づけるか!というのが
結晶学(生物系)の重要課題となっています。

2014年10月24日金曜日

やさしい科学技術セミナーの報告です

1020日(月)に河合中学校で全校生徒75人を対象に「結晶学入門 ~分子のかたち、私たちのかたち~」というタイトルで、やさしい科学技術セミナーを行いました。
結晶学入門というタイトルは堅苦しいかなと思ったのですが、中学生の頃を思い返してみると、結晶というのは理科の授業で出てくる一つの現象に過ぎず、それが学問として成り立っているというのはあまり考えなかったものです。そこで、最初に思いついた「結晶学入門」というタイトルを残しました。



セミナーのはじめに黄鉄鉱とアメジストを生徒に見て、触ってもらいました。ビデオや写真を見直すと、意外と好評だったようです。どちらも個人的に収集したもので、こんなときに役立つとは思いませんでした。

実験は前回のブログにも載せたように、酢酸ナトリウムの結晶化実験です。ひとかけらの結晶核から、結晶が瓶全体に成長する様子を見て、歓声があがっていました。実験で歓声をあげる姿は非常に新鮮でした。研究者のみなさん、実験結果を見て歓声をあげたことってありますか?
好奇心や情熱が大事だと言っているものの、大人になると失ってしまうものですね。

後半では、X線結晶構造解析の話をしました。やはり中学生には難しかったようです。実験して見せたいところなのですが、中学校の体育館でエックス線実験をするわけにはいきませんので。

終盤、私の専門であるタンパク質の結晶構造の話をしたのですが、中学生に何をどこまで話せば良いか悩みました。今回はヘモグロビンを例に出したのですが、身近なタンパク質なので興味をもってもらえたかと思います。

最後が説教臭くなってしまって(大誤算)、しまった!と思ったのですが、何人か質問に来てくれた生徒がいてホッとしました。



理科嫌いの子供が増えていると話題になっていますが、結晶が出たときの生徒の歓声を聞く限り、悲観しなくてもいいのではと感じました。いつまでも、その感性を大事にしてほしいと思います。


最後となりましたが、岡崎市立河合中学校の河野先生には授業の段取りや会場設営をはじめ、大変お世話になりました。本当にありがとうございました。この場を借りて御礼申し上げます。
また、当日は何名かの先生にもご参加いただきました。生徒へのフォローなど、ご協力ありがとうございました。